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日・中・韓の大学入試統一試験を社会的・文化的に比較分析する

日・中・韓シンポジウムの様子プロジェクトと衛星シンポジウム
日・中・韓の大学入試統一試験を社会的・文化的に比較分析する

主催:河合文化教育研究所 増進会出版社 河合塾
後援:毎日新聞社 全国予備学校協議会 日韓交流基金
全電通東海支部 大成学院(ソウル)北京大学
北京大学付属中学校
日時:1996年9月~10月


 日本の近代化を推進し、近代国家の形成に一定の役割を果たしてきた日本の近代学校教育百年の使命は世紀末の現在終わろうとしている。いまや学校教育の行き詰まりは日本社会共通の認識であり、その改革は焦眉の課題になっている。競争に基づく生産力主義を軸にした近代国家の教育内容に替わって、生命を尊重し他者との共生・協働をなしうるような知性と人格をもった人間の育成がこれからの教育の役割である。環境、人口、資源など地球規模で問題が山積している現在、教育をナショナルな枠組みで考える時代は終わりつつある。


日・中・韓シンポジウムの様子 この日本の教育の問題と課題は日本特有のものではなく、非西欧的文化伝統のなかに西欧的近代教育を接ぎ木しながら近代国家をつくりあげてきた中国、韓国にも共通のものであるといえよう。そういう事態のなか、近代教育に替わって、他者への想像力を養い国境を越えて真の相互理解にいたるような教育をこの東アジアで、中国、韓国の人々とどのように構想できるか。この構想への道筋を探っていく第一段階として、まず、中・日・韓三国の教育の中身を認識しよう、ということで本プロジェクトが企画された。
 その具体的な一歩として、各国の大学入試統一試験に焦点をあてることになった。大学入試にその国の教育内容と方針が端的集約的に表れ、またなによりも大学入試がこれからの世界を担って行く若い人々の意識と生活に深い刻印を押していると推測され得るからである。
 本プロジェクトは、大学入試を単に比較吟味するのでなく、その問題を各国の受験生に相互に解答させ(1996年9月、ソウル、北京、日本各地で三国の受験生が受験)、その上でかれらの率直な意見交換のためのシンポジウム(10月衛星にて)を開催することを通して、動きのある立体的な比較、分析を実現させた。このプロジェクトによって、各国の教育の現状と文化の固有性による差異の理解への豊かで現実的な突破口ができ、真の相互交流、相互理解への道の一端が開かれた、と考える。


日・中・韓シンポジウムの様子各国の問題の特徴と傾向
韓国
 全教科をほぼ貫いて、論理的推理能力やコミュニケーション能力が要求される問題作り。問題の素材も複数の教科にまたがるものが意識的に出されていて、現実社会に切り結んでいこうとする気迫が感じられる。三国のなかでは際立って実践的。21世紀に向けて韓国国家が、状況適合型よりは状況突破型の人間を育てようとしていることが明瞭になっている。

中国
 英語、数学など日本に似て知識を問うスタティックでオーソドックスな問題作り。その反面、社会の問題においては、現在の中・米の国際関係をリアルに反映したアメリカ批判、日本、台湾に対する中国政府の現状認識がストレートに打ち出された問題など、国家の認識を共有することを中国の受験生に求めているというところによくも悪くも強い印象が残る。

日本
 国家の意思を最も感じさせない、知識の習熟度のみに焦点をあてたニュートラルな問題作りになっている。その意味では、これからの世界のボーダーレスの流れに一見合っているようだが、外へ他者へと開かれて行く回路は感じられない。問題としてはそつがなく完成度が高いが、他の二国に比べて無個性無方針を特徴とし、問題そのものに力がない。


衛星シンポジウム
  10月10日14時より河合塾桜山校サテライトスタジオとコリアテレコム・大成学院(ソウル)を結んで衛星シンポジウムが実施された。当初は北京─ソウル─名古屋の三元中継の予定だったが、北京が諸般の事情によりつなげず、受験した北京大学付属高校の3年生はビデオ出演。シンポジウム会場には中国の留学生たちが参加し、討論に加わった。
  討論には、韓国の問題の先進性──知識重視の日・中にくらべて論理推理能力、総合的読解能力の重視──などをめぐって活発な討論がなされた。また、三国とも受験生は自国が最高と思っている、という反省も述べられ、3時間がアッという間の、時間が足りないことを痛感させられた充実したシンポジウムであった。

シンポジウム・主な参加者
日本、中国、韓国の高校生、大学生、予備校生
(桜山スタジオ、大成学院、ビデオ、各地のサテライト会場に参加)
および
谷川道雄(河合文化教育研究所主任研究員)
牧野 剛、竹国友康、金 貞義、趙 博、北川博康(河合塾)
石原 明、秋山哲司(増進会出版社=Z会)
洪 性五(大成学院)

ほかにビデオ出演
最首 悟、表 三郎(駿台予備学校) 李 成市(早稲田大学)
酒井敏行(代々木ゼミナール)
                       ほか多数

日・中・韓シンポジウムの様子プロジェクトの総括
 本プロジェクトは、初めて隣国である中国や韓国の大学入試統一試験を正面から取り上げ、これを立体的に分析した、ということで多くのマスコミの注目するところとなった。その意味では、隣国に日本のセンター試験のような大学入試統一試験があることも知らなかった多くの人々に、隣国の入試問題の中身や教育方針などを知らしめ、隣国への理解の一端を開いたことは大いに意味のあることであった。またこの、試験問題の比較分析を通して程度の差こそあれ、各国が自国の大学入試問題、教育を対象化するきっかけになったことは相互理解のためのおおきな布石になった。しかし、東アジアの真の相互交流、相互理解の実現のためにはまだ道程は遠く、また、東アジアの教育の共通の課題について相互につっこんで話し合うまでにはいたらなかった。引き続き本プロジェクトの継続・深化がのぞまれるゆえんである。