ご案内 / 第18回 河合臨床哲学シンポジウム「あいだと間」
第18回 河合臨床哲学シンポジウムを開催いたします。
第18回 河合臨床哲学シンポジウム「あいだと間」
日時 : 2018年12月9日(日) 11:00~18:00
会場 : 東京大学 弥生講堂 一条ホール
〒113-8657 東京都文京区弥生1-1-1 東京大学弥生キャンパス内
《参加費1000円(資料代含む)/学生無料》
詳しくはこちらへ → 第18回 河合臨床哲学シンポジウム「あいだと間」
これまでの「河合臨床哲学シンポジウム」
出席者
◇ 挨拶
木村 敏(河合文化教育研究所所長)
◇ シンポジスト
村上陽一郎(東京大学・国際基督教大学 名誉教授)
宮内 勝 (元・東京藝術大学楽理科 講師)
阪上正巳(国立音楽大学 音楽文化教育学科 教授)
野間俊一 (京都大学大学院 医学研究科 脳病態生理学講座精神医学 講師)
◇総合司会
野家啓一 (東北大学名誉教授・総長特命教授)
◇コメンテーター
谷 徹 (立命館大学文学部人文学科哲学専攻教授、間文化現象学研究センター長)
内海 健 (東京藝術大学保健管理センター教授)
プログラム
11:00 野間俊一 (発表1)
「〈あいだ〉の眼差し」
・コメンテーターとの討論
12:00 宮内 勝 (発表2)
「音楽における『間』と『あいだ』」
・コメンテーターとの討論
13:00 昼食( ~14:00)
14:00 阪上正巳 (発表3)
「統合失調症者の音楽表現とあいだ」
・コメンテーターとの討論
15:00 村上陽一郎 (発表4)
「〈あいだ〉と〈ま〉のはざま」
・コメンテーターとの討論
16:00 休憩( ~16:15)
16:15 全体討論( ~18:00))
趣意書
〈あいだ〉や〈間(ま)〉について語ることは難しい。それは、ときに不可能とすら見える。というのも、〈あいだ〉は在るようで無く、無いようで在る無限定の存在だからである。それは〈もの〉や〈ひと〉のように自存して在るものではない。だが逆に、〈あいだ〉がなければ、〈もの〉も〈ひと〉も支えを失い、在ることはできない。
〈あいだ〉のない世界には、稠密に充満した無差別の拡がり(延長)が在るだけである。それは空間ですらない。〈もの〉や〈ひと〉を容れる余地 (space) をもたないからである。したがって、そこには上下左右の区別もない。無差別の連続体に切れ目を入れることによって初めて、〈あいだ〉は出現する。デデキントではないが、切断は連続体を二つの領域に分割する。それによって、〈もの〉と〈もの〉との間には「距離」が、〈ひと〉と〈ひと〉との間には「関係」が生ずる。言い換えれば、切断は〈あいだ〉をもたらす世界の分節装置であり、〈もの〉や〈ひと〉の個体化の原理でもある。〈あいだ〉を通じて、世界は sens すなわち方向と意味とを身に帯び始める。
同様のことは時間についても言える。隙間のない充溢した連続体に時間は流れない。前後の区別を可能にする切断を通じて、時は流れ始める。音と音とは〈あいだ〉に隔てられることによって逆に結びつき、妙なる楽曲となる。しかし、水平の〈あいだ〉を手に入れただけでは、音はまだ人の心に響かない。それはクロノスという「過去から未来に向かって飴のように延びた時間」(小林秀雄「無常といふ事」)を生ずるだけである。音の連なりがニーチェの言う「音楽の精霊」を宿すためには、カイロスの手助けを必要とする。それを好機(チャンス)やタイミング、あるいは垂直の〈あいだ〉と言い換えてもよい。
同じ機制は自己の成立にも働く。昨日の自己と今日の自己の同一性を支えるのは、水平の〈あいだ〉である。だが、それだけでは足りない。自己が自己となるためには、自らを垂直の〈あいだ〉に投錨しなければならない。その垂直の〈あいだ〉を木村敏は「生命一般の根拠」と呼んだ。自他関係、すなわち私と汝の差異と同一もまた、この根拠に与かっているのである。
〈あいだ〉は物と物、人と人とを結びつけると同時に切り離す。ジンメルならば「人間は、事物を結合する存在であり、同時にまた、つねに分離しないではいられない存在だ」(「橋と扉」)と言うであろう。分離の象徴が「壁」であるとすれば、結合のそれは「橋」である。「日本の橋」のなかで、保田与重郎は「ものをつなぎかけわたすという心から、橋と愛情相聞の関係はずい分に久しいもののようである」と述べた。時空の端緒から橋上の出会いと別れ、そして間柄の倫理まで、〈あいだ〉は森羅万象を象り司るアルケー、すなわち「無限定なるもの(ト・アペイロン)」にほかならない。 (野家啓一)
《お問い合わせ先》
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