ご案内/第15回河合臨床哲学シンポジウム「生きられる死」
第15回河合臨床哲学シンポジウムを開催いたします。
第15回河合臨床哲学シンポジウム「生きられる死」
日時 : 2015年12月13日(日) 11:00–18:00
会場 : 東京大学鉄門記念講堂
(東京都文京区本郷七丁目3番1号 医学部教育研究棟14F)
《参加費1000円(資料代含む)/学生無料》
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ポスター→第15回河合臨床哲学シンポジウム.pdf
パンフレット→第15回河合臨床哲学シンポジウム.pdf
出席者
◇ 挨拶・全体討論
木村 敏(河合文化教育研究所所長)
◇ シンポジスト
大橋良介 (日独文化研究所・所長。テュービンゲン大学客員教授)
金森 修 (東京大学大学院教育学研究科教授)
深尾憲二朗 (帝塚山学院大学人間科学部教授)
和田 信 (大阪府立成人病センター心療・緩和科部長)
◇ コメンテーター
野家啓一 (東北大学高度教養教育・学生支援機構総長特命教授)
内海 健 (東京藝術大学保健管理センター教授
◇ 総合司会
谷 徹 (立命館大学文学部人文学科哲学専攻教授、間文化現象学研究センター長)
プログラム
11:00 和田 信 (発表1)
「がんとともに生きる」
・ コメンテーターとの討論
12:00 金森 修 (発表2)
「ビオスとタナトス」
・ コメンテーターとの討論
13:00 昼食( ~14:00)
14:00 深尾憲二朗 (発表3)
「内なる死のまなざし
──てんかん、デジャヴュ、臨死体験」
・ コメンテーターとの討論
15:00 大橋良介 (発表4)
「脱け去る死でも、襲う死でもなく」
・ コメンテーターとの討論
16:00 休憩( ~16:15)
16:15 全体討論( ~18:00)
趣意書
日本の美には破調が欠かせない。茶席で手にとった器が、つるんとしてシンメトリックであれば、何となく興醒めである。形のゆがみ、釉薬の垂れ、あるいは割れや接ぎの一つもないと、落ち着かない。そして縁の微妙な曲線に飲み口を見出す。塵一つ落ちていない庭を掃除するよう命じられた十七歳の利休は、樹をゆらして、あえて葉を舞い散らせた。
弓道も破調の美である。矢は、張り渡した弦の下三分の一のところにつがえられ、そして放たれる。的に中てるためであれば、洋弓のごとく、対称的であった方が有利である。にもかかわらず、狩猟でも、戦場でも、和弓は非対称でありつづけた。
弓道家は、的に中てるだけでは評価されない。所作の美しさが問われるのであり、射はその所作の中にある。戦前、来日して禅と弓道に励んだドイツの哲学者ヘリゲルは、「的を狙ってはならぬ」という師のことばに当惑した。西洋人にはなかなか理解するのがむずかしいだろう。門外漢の気安さでいえば、的があってそれを射るのではなく、射のいとなみが、的という対象を生み出す。ここに効いてくるのが、和弓の非対称性、すなわち破調である。静謐さの中にまぎれ込んだクリナメンが、世界の開けを響かせ、達人ともなれば、紫電清霜の美にいたる。
ベルグソンのエラン・ヴィタールが「生のはずみ」と訳されているのをみたことがある。「躍動」や「跳躍」が定番だが、「はずみ」ということばには、何かドキリとさせるものがある。エラン・ヴィタールは、文字通り、生の原理である。同時に、潜勢的で、それ自身のなかに差異がはらみ、さらにはみずからを引き裂く力をしのばせている。そこから分化したのが知性であり、そして言語である。スタイリストであるにもかかわらず、言語嫌いのベルグソンは、それを十分に展開できなかった。現実を離脱する軽やかさを認めながらも、そこに物質への親和性を嗅ぎ取っていたのだろう。
言語がもつ死の契機が最も顕著となるのは、それが命じる象徴的個体化の局面である。そしていったん個となった以上、社会と自己保存の桎梏が、「鉄の檻」のごとくわれわれの上にのしかかる。そこでは、進化の袋小路に迷い込んだごとく、生と死は個の水準に縮減されている。だが、個の中に刻印された死の痕跡を賦活させてみることはできないだろうか。
ヘリゲルの師、阿波研造は、暗闇で二本の矢を的中させてみせ、「私が中てたのではない。それが射るのである」と諭したという。個を去ることにより、原初のはずみがそこで鳴り響いた。ならば、ことばもまた、その始原において、祈りのように、あるいは呪いのように、暗闇に向けて発せられたのではないだろうか。それは自然から精神が生まれ出る瞬間である。ことばがはずむとき、個はしばし消滅し、開闢を告げる声が反復され、そこに鳴り響く。
(内海 健)
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