人称をめぐって ── 臨床哲学の諸相
新刊
人称をめぐって――臨床哲学の諸相
監修 木村敏・野家啓一
発行 河合文化教育研究所
発売 (株)河合出版
2019年1月刊行
A5版 4200円+税
[監修]
木村 敏
野家啓一
[執筆]
清水光恵
森 一郎
斎藤 環
谷 徹
熊﨑 努
野家啓一
岡 一太郎
藤井貞和
[座談]
野家啓一
谷 徹
内海 健
◆ 目次 ◆
まえがき 木村 敏
第16回・第17回河合臨床哲学シンポジウム・プログラム 趣意書
座談会・人称をめぐって 野家啓一・谷徹・内海健
デカルト主義的実体を超えて
コギトの両義性
logosからverbumとratioの分離へ
非人称としてのボン・サンス
世界の習慣としての因果性
他者をめぐって――自閉症と統合失調症
無人称の「われわれ」
自我と原自我の差異論的構造
言語的アクチュアリティ
さらに先へ――臨床哲学シンポジウムの一旦の総括
Ⅰ 人称――その成立とゆらぎ
自閉スペクトラム症における「私」 清水 光恵
1 はじめに
2 ASDにおける人称の獲得
3 ASDにおける他者の不在と「私」の拡散
4 私は存在するか
5 おわりに代えて
私には見えないのに、あなたには見えるものって何? 森 一郎
1 なぞなぞとまちがいさがし
2 「何か」と「誰か」
3 現われと隠れの戯れ
4 仮面の政治学と赦しの政治
対話の中の「人称」 斎藤 環
複数性の対話――オープンダイアローグ
Nothing about us without us
治療チーム――権力構造の最小化
新たな「他者性」、新たな「関係性」
「我と汝の問題
<われわれ―なんじら>と新たな他者性
「プレコックス感」から対話的了解へ
「対話」・「人称」・「身体性」
身体のポリフォニーへ
私は思考しうるか 谷 徹
はじめに
1 〈私〉の哲学、〈自己〉(おのれ)の哲学
2 「媒体」とその「拡大」としての「媒介者」
3 「意識されてある」の「拡大」としての「私はある」の「原事実」
4 自立的な目立つものと、自立的でない目立たないもの
おわりに
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Ⅱ 非人称・前人称・無人称
臨床場面から見た一人称の謎 熊﨑 努
はじめに
臨床場面における一人称特権
一人称特権と相互理解
相互理解と反実仮想
おわりに
非人称(エス)の迷路のなかで 野家 啓一
1 問題の発端――「エルの神話」から「エスの神話」へ
2 マッハによる「自我」の消去
3 非人称の次元――初期サルトルの「自我の超越」
4 非人称の身体性――オイゲン・ヘリゲル『弓と禅』
5 非人称の倫理学は可能か?
6 結語――エスと神なる自然
統合失調症性残遺状態の一様態 岡 一太郎
1 はじめに
2 予備的考察
3 症例呈示
4 考察
5 おわりに
人称の役割――前-文法、『源氏物語』、精神の危機 藤井 貞和
1 はじめに
2 “引用の一人称”
3 人称と自然称、擬人称
4 敬称、人称接辞
5 「心の鬼」「鬼のかげ」
6 もののけの人称は
7 鬚黒の北の方の悲劇
8 善見太子の悟り――前生の母
あとがき 野家 啓一
◆ 著書の内容 ◆
一切の思惟と感性の根源である「私」(=一人称)は、言葉の成立とともに始まる。
どこまでも言語的な存在であるこの「私」は、同時に自己の身体に基礎づけられて
他者との人称関係に入り、世界の奥行きを構成していく。そしてこうした明示的な
人称(person)の直下には、原人称と前人称、さらに非人称のesがうごめき、人
称を超えつつ人称を支えている。――人称を、非人称・前人称・無人称にまで遡っ
て吟味し、その存在論的差異をもふくめて徹底的に考察した刺激的な論考集。