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2015年度 主任研究員会議

2015年4月23日(木) 第24回文教研主任研究員会議が京都ガーデンパレスで開催されました。

2015主任研究員会議全員4人


〈プログラム〉
* 文教研所長の挨拶
* 文教研の昨年の活動報告と今年度の予定
* 主任研究員の先生方の発表──昨年度の研究とこれからの予定について
 木村敏先生
 中川久定先生
 長野敬先生
 丹羽健夫先生
* 全体討論・報告その他

 


主任研究員の先生方のご発表は次の通りです。

 

 

木村 敏

1 著書・編著
 1)木村敏『あいだと生命一臨床哲学論文集』創元社2014
 2)木村敏・野家啓一監修『臨床哲学の諸相・臨床哲学とは何か』河合文化教育研究所2015

2 論文
 1)臨床の哲学.上記『臨床哲学とは何か』所収
 2)感性と悟性の統合としての自己の自己性──超越論的構想力の病理.同上
 3)LebenundTodalsManifestationdesZwischen.In:DasZwischendenken,Marx,Freud
undNishida.FOrToshiaki(Binmei)Kobayashi.Hrsg.vonMartinRothundFabianSchafer
LeibzigerUniversitatsverlag2014.39-48.
 2015主任研究員会議木村先生4)自他関係における現勢態 actualityと潜勢態 virtuality. 臨床精神病理35巻3号2014

3 講演
 1)統合失調症について最近考えていること  精神科治療講演会(2014/5/22).
 2)統合失調症における自己の障碍 京都大学稲盛財団共催京都賞シンポ(2014/7/12)
 3)「自己」と「私」の概念をめぐって 京都賞シンポジウム(2014/7/13)
 4)自他関係における現勢態と潜勢態 第37回日本精神病理学会.東京芸大(2014/10/5)

4 2015年度の計画
 1)第15回河合臨床哲学シンポジウムを開催(東京2015/12/13)
 2)年4回1泊2日の文教研「心身論研究会」を続行(名古屋)
 3)月1回の寺子屋セミナー「アポリア」を続行(京都)
 4)月1回ヴァイツゼカーについての学際的研究会「バトソフィア」を続行(京都)

 

 

 

 

 

 

中川久定

1.『啓蒙の精神フランスと日本』、パリ、シャンピオン社、2015年(近刊)
2.日本学士院、人事選考委員としての仕事

中川先生は表題1.2.のことを次のようにお話しされました。

2015主任研究員会議中川先生 ひとつは私は最近本を書いて、『啓蒙の精神  フランスと日本』(『L'sprit des Lumieres en France et au Japon』)という本がシャンピオン社から出ます。
 啓蒙というのは何かというとカントが『啓蒙とは何か』という本を書いていまして、それは「完全に他者に依存しないで自立すること」。そういう精神状態を人が持つようになった時に、それを啓蒙された自己というふうに呼ぶと言うことを定義しております。そういう精神を啓蒙の精神と仮に訳しますけれども、それはちょうど18世紀くらいから日本でもはっきりと現れるようになって、だからカントが『啓蒙とは何か』という本を書いたわけです。
 そういう啓蒙という意識がはっきり出てくるものは何かということについては、フランスで出ている本で『啓蒙の時代』という、自立した精神がうまれてくるということがはっきりと自覚されるようになった、1715~1815年のあいだにヨーロッパの全体で出てくるということを書いてあります。約100年間でそれを啓蒙の世紀という。
 それがただ単に一国だけに出てくるのではなくて、フランスにも出てくるし日本にも出てくると、それを検討してみるとどういうことがいえるかということを、多少意を尽くして書かなければならないと、それをフランス語で書きました。
 ページが850ページくらいありますので時間がかかってしまったのですが、それが出ればまたフランスでもある種の論議を巻き起こし得ると私は思っています。

 もうひとつは、日本学士院の人事選考委員の仕事をしています。推薦された人が会員に相応しいかどうか論文を読んで選考するわけです。それは私にある種の精神に緊張をもたらしますので私は敢えて自分から志願してこの仕事をやっています。
 やればやるほど自分の知らないことに気づかされるとともに精神が根本から掻き回されるのでそれでやっています。非常に多くのものを読んできて感じたことは、ダメな仕事というのももちろんあります。ダメな時には押せば向こうに突っ返されるようなものです。ところが優れた研究というのは押しても押し返してくるんですね、力があるから。これは比喩的にしかいえないんですけれども、そういうものにぶつかるというのは非常に自分にとっては喜びですので、選考委員会での選考に、自分では専門ではなくてもそれやるようなことをしていまして、そのたびに精神が覚醒するような気持ちがしています。







 

 

長野 敬

2015主任研究員会議長野先生1 翻訳
チップ・ウォルター(著) 長野敬・赤松真希(訳)『人類進化の七〇〇万年』第3版)2014 青土社/(Chip Waltar: Last Ape StandingーThe seven-million-year story of how and why we survived. Walter & Co. 2013)
ジュディス・S・ワイス(著) 長野敬(訳)『カニの不思議』2015 青土社/(Judish S. Weis:Valking SidewaysdーThe Remarkable world of Craps Cornell University Press. 2012)

2 監修と分担執筆
『サイエンスビュー──物総合資料,増補四訂版』,実教出版2014年2月.

3 生物学シンポジウムに向けて(7月5日 河合塾麹町校デルファイホール)
 「生命における再生現象の位置づけ」。きっかけの一つは「Stap細胞」騒ぎだったが、これは文字通り「騒ぎ」にすぎないことがすぐ明らかになった。しかしその手前の成果であるES細胞やiPS細胞もやはり多能性・全能性の問題であることを思いだすと、手前のもの(祖先細胞)からその先(子孫細胞)ができてくる生命の継承は、少なくとも有性生殖の形式として何億年間か不変のまま続いてきたシステムであり、生命の基本の一つと位置づけられる。
(1)この基本システムがいま、どこまで明らかになっているかを見直すことと、(2)文教研および河合塾でも「再生現象」をテーマに小シンポを企画してはどうかとの意見もあったことも考慮しつつ、分子遺伝学での知見をあらためて整理してみた。
 遺伝子どころか、生物学という発想(ラマルク、1802など)のはるか以前から、再生の乱れは不思議・奇怪な現象として知られていた。この現象に、研究の端緒となる奇形腫(teratoma;teratology)という呼称を与えたのはジョフロワ・サンチレール(1772-1844)だった。遺伝の分子レヴェルでの解明(二重らせん;クリックのセントラルドグマ[DNA→RNA→タンパク質])以後に、ようやく本格的となった。
 自然の再生過程が順調に進む仕掛けの一つは、受精の瞬問に遺伝子DNAのメチルが(ほとんど)全部外されるという「初期化に」よって、分化の状態が一度ご破算になり、それから順序通りに正しく分化が進むことにあるのだが、「正しい」進行を司る機構の詳細は、今後の研究に委ねられている。
 動物の世界でも、発生が途中から反復するという形での再生が目立つ例はあるが(プラナリアの「ノウダラケ」、ゴキブリの脚、「トカゲの尻尾」)、植物では、一見途中からの再生と言える現象がもっと普通に見られる(「栄養生殖」、挿し木、ユリのむかご、鱗茎、ベンケイソウの「挿し葉」)。ただ、動物では一度進んでしまった細胞の分化状態が戻るという理解ができる場合が多いのに比べて、植物では、分化の手前で留まっている組織・細胞が切断などを契機として先へと進みだすと見られるのではないかという。
 上記(2)の小シンポでは、とりあえず動物(医学)側から仲野徹氏(阪大医学部)、植物側から杉山宗隆氏(東大理・生物、植物園)の参加を得て、上のような動植物での対比、それでも脱メチルなどの基本機構はおそらく同じであろうというあたりの基本的な見方を軸に、解説的な普及講座を心がけたい。

 

 

 

丹羽健夫

2015主任研究員会議丹羽先生

A この一年でやったこと
・中西学園関係
定例会議(隔週)、理事会出席 1
名古屋外国語大学講義実施(前期週1、テーマ「キャリア・デザイン」
大学の講義はこれをもって最後
・河合塾教育情報部編集の高校先生向け情報誌『ガイドライン』書評コラム「教育を読む」の執筆
2014年4・5月号『羊の宇宙』夢枕獏著
    〃7・8月号『郷愁の詩人与謝蕪村』萩原朔太郎著
    〃9月号『鹿鳴館の貴婦人大山捨松』久野明子著
    〃11月号『漱石の思い出』夏目鏡子述・松岡譲筆録
2015年4・5月号『怪人二十面相』江戸川乱歩著
2015年版『わたしが選んだこの一冊』原稿『万葉秀歌』評

B 現在やっていること
・中西学園関係
・執筆中『日本人の留学』
・執筆中『日本の小学校』

 

 

 

 

 

渡辺京二

 

渡辺先生はご欠席でしたが、一年間の活動について文書でお寄せくださいました。

2014年5月~2015年4月までの仕事

1 単行本
『無名の人生』文春新書2014年8,月刊
(柄にもなく人生論みたいなことを語ったものです。インタビューなのですが、インタビュアーがかなり自分の文章化しているので、なんだか他人が喋っているような変な気がします。)
『女子学生渡辺京二に会いに行く』文庫 2014年12月刊 (2011年刊の亜紀書房版の文庫化)

2 連載
 a)「バテレンの世紀」
(月刊誌『選択』の連載も100回をこえ、いよいよ島原の乱に入り、終りもみえて来ました。来年の初めころには完結を迎えられそうです。)
 b)「提論」
(『西日本新聞』の「提論」というコラムに一年間計5回書かされました。自分が「提論」などする柄じゃないことがよくわかって、一年で辞めさせてもらいました。)
2014年4月27日  「引きずる一流国家幻想」
      7月6日   「物書きは地方に住め」
      9月21日  「はびこる紋切り型思想」
     11月30日  「変わる保革の意味」
2015年2月22日  「質のよい生活」
 c)「読書日記」
(『エコノミスト』誌の「読書日記」欄の筆者の一人として書かされ、これもしんどくなって一年で辞めました。)
2014年5月20日号  『ブーニン作品集』第1巻
      6月24日号   シニヤフスキー『ソヴィエト文明の基礎』
      7月29日号   斎藤清明『今西錦司伝』
      9月9日号    黒田杏子『語る兜太』
     10月14日号   宇根豊『農本主義が未来を耕す』
     11月15目号   臼井隆一郎『苦海浄土論』
     12月23日号   坂口恭平『幻年時代』ほか
2015年2月3日号    伊藤比呂美『父の語る』
      3月10日号   石牟礼道子『不知火おとめ』
      4月14日号   池内恵『イスラーム国の衝撃』


3 エッセイなど
「父母の記」                『新潮45』2015年2月号・3月号
「吉本さんのこと」          『吉本隆明未収録講演集』月報1・2
「『バテレンの世紀』に想う」『ゆるし』(イエズス会聖三木図書館)2014年12月刊
「石牟礼道子詳伝年譜」       (『石牟礼道子全集』別巻所収)

4 インタヴュー・講演
「二つに割かれる日本人」    『文藝春秋スペシャル』2015年冬号
「石牟礼道子を読む」(7月20日 熊本市現代美術館)『現代詩手帖』2014年10月号

5 対談「気になる人」(「熊本日日新聞」に一年間、計9回連載)
いろんな場所で自分らしく生きている人々、著述家、カフェ・レストラン経営者、書店員、農園主などからお話を聞きました。(2015年5月、晶文社から刊行予定)


他、こまごましたものは省略します。
この一年、自分としては両親のことを書けたこと、吉本隆明さんとのご縁について書けたこと、さらに「石牟礼道子全集・別巻」に石牟礼さんが自伝「葭の渚」で1960年代末までしか語っていないので、その後のことを私が自分の日記をもとに補筆したことが収穫一というより義務が果せた気がしています。両親のこと、石牟礼さんのことはともに400字100枚余りあって、老衰しつつある私としては大仕事で消耗しました。