設立趣旨
河合文化教育研究所は、学校法人河合塾の付属研究機関として1984年に設立されました。世紀末という時代の転換期にさしかかるにつれ、近代の学校教育と既成の学間の内部における諸矛盾がさまざまに顕在化してきましたが、本研究所はそうした時代にあって、新しい枠組みでの教育の模索と学問の構築という焦眉の課題に応えるべく、予備校を中心に自由な教育現場で塔ってきた河合塾の豊かな経験と知を生かして、次代を担う若者に主眼をすえた新しい文化・教育・学術研究を展開すべく設立されたものです。
本研究所の始動から30年、「教育」と「学問」を二本の柱として、内外の第一線で独自の研究や創造的な活動に携わる多くの方々の支持を得ながら、本研究所は国際学術シンポジウム、公開講座、文化講演会、研究会、書籍出版などの活動を中心に、時代の軸に届くような原理的な考察の場をひらくべく活動してきました。また、精神医学・東洋史学・近代西欧思想・日本思想史・分子生物学・教育論などそれぞれの研究分野の最先端で活躍する主任研究員の方々の支援を得て、脱領域的・横断的な研究活動を展開し、その成果を発信してきております。
21世紀に入って10年余、市場における金融・情報・軍事のグローバルな支配をともなう新自由主義の飽くなき経済行動が、いま世界規模の貧困と格差、地域紛争、難民の創出、自然破壊、公共空間の消滅など多くの矛盾を生み出しつつあります。また、新自由主義は、人間の内面をも競争と選別に基づく市場原理に適合的なものに作り変えてきており、地球レベルでも個人の心の次元でも危機は増すばかりです。
こうした状況の中、2011年の東日本大震災と福島原発事故によって、これまでの科学万能主義、市場万能主義の近代のあり方そのものが、根源的に問われることになりました。この未曾有の原発事故の被害は日本だけでなく、世界中の生態系にも深刻な影響を与えています。この痛みを教訓に、近代の良質な遺産を生かしながらも、どのように近代を超え出ていけるのか、がいま問われています。資本主義と近代学問の究極の姿としての新自由主義と科学万能主義を克服するための深い洞察に裏打ちされた新たな思索が求められる所以です。
この地球という空間の中で、民族・文化・言語・国家・男女の差異を超えて一人ひとりの人間が互いに生きる力を出し合い、ともに地球規模の困難な課題に向けて生き生きと知恵を出し合い鍛え合えるような、新たな教育と学問の開かれた場の構築をめざして、本研究所は、ささやかながら日々努力を続けていきたいと念じております。