HOME  >  文教研ぷらす  >  グレートジャーニー ユーラシア大陸は平らだった-ベーリング海峡からアフリカ人類発祥の地のアフリカまで-  >  13.大人に媚びない。良く働く子どもたち

13.大人に媚びない。良く働く子どもたち

 

 農繁期には忙しい。
こういう伝統社会では全部そうですが、お兄ちゃんお姉ちゃんが小さい子を見る。
子どもたちが非常によく働くし、
お兄ちゃんお姉ちゃんも一生懸命農作業をしなければならないので、
赤ちゃんは籠の中に入れられて、泣こうが何しようが、ここの中で動けない。

 子供たちの中の男の子で非常に面白い子がいました。
いつも標高4000m前後の、富士山より高いところにテントをはっていましたが、
いつも遊びに来る男の子がいたんです。アンジュ君と言いました。
その子も学校に行っていない。バイトをしてた。

貧乏な家の子供かなと思っていましたが、
どういうバイトをするかといったら、どこかの家に行って家畜の糞拾いをする。
ヤクの糞を拾って歩く仕事なんです。

ヤクの糞というのは肥やしにもなるし、燃料にもなる。
そのヤク糞を集める仕事か、
ほかの家族のところに行って、ヤクとか家畜を預かって世話を一日、
草を食ませに一日歩かせる。
そういうバイトをしてる子がいて、必ずテントに遊びに来てくれた。
その子の距離のとり方が非常に好感が持てました。

 要するに、すごく好奇心が強くて、寄ってきますが、
テントには入って来ない。
ほんとに一生懸命、一日中働いてもギャラはそんなによくないんです。
ソバの粉で作ったパンケーキみたいなものを何枚かもらって、
それでほんとにうれしそうにやってきて、目の前で食べ、

ビンに飲み物が入ってるから、おいしそうな飲み物が入っていると思ったから
味を見たら、ただの小川の水。すごくおいしそうに飲んでいる。
たまたまスポーツドリンクの粉末があったので、それを入れてあげたんです。
それを飲んだら、こんなうまいものが世の中にあったのかという顔で
うれしそうに飲み始めた。
そういう甘いものを一回あげると、普通の子だったら距離がずっと縮まるというか、
むしろベタッとしてくる子が多いのですが、
その子はそうやってなんか甘いものをあげても、相変わらず距離は一定に保っている。

 すごくニコニコしながら、しかし気は強い。
この時はポーターが一緒にいて、テントや食料を運んでくれましたが、
ポーターたちがちょっと冷やかしたりすると、ほんとに突っかかってくる。
そういう子で、とにかく距離がいつも一定に保っている。
いつもテントに近づいては、石鹸をたたきつぶして粉々にしちゃったり、
いたずらが好き。

    ・左から二人目がアンジュ君

 僕にはすごく魅力的に見えたんです。
この男の子が。なぜだろうと思ったら、
今までいろんなところで、モンゴルとか南米で、
自分が気に入った子どもたちに共通点があることがわかったんです。

それはすごく独立心が強い。
要するに親なんかいようがいまいが自分で勝手に生きてるということでした。

 そして、一番の共通点というのは大人に媚びてないということ。
何かもらうとベタッとして、もっと欲しいから近寄ってくる子が多いけど、
そうじゃない。
もらったからって、それがどうなのといった感じですね。
大人に媚びない。
要するに自分が気に入った子どもたちというのは、
そうか、そういえばみんなそうだったなあと思っていましたね。

 それはなぜかと言うと、やっぱり自分の国、日本の国というのは、
媚びた子がエリートになる。優等生になる。
例えば答えにしても、先生の答えと合った子が優等生。
勉強のできる子になる。
あるいは社会に出ても、だれかに合わせるとか、上司に気に入られた子、
そういう子が偉くなる。

 だから官僚とか、特にこの人たちと会った頃は、警察にいっぱい不祥事があった。
高級官僚とか警察に不祥事があったけど、
ほとんどあれは能力があって偉くなったのではなくて、
何かに媚びて、上司と答えが合ってというか、
合わせるような人がなったのじゃないかと思った。

 要するに、答えがひとつで、答え合わせがうまくできる子だということです。
しかし、本来はそうではなくて、答えというものはひとつではないし、
答えに至る道というのはいっぱいあるはずです。
彼らはそういう社会に生きているわけですね。

 実は人のことも言えないんですね。
僕の時代は多分、偏差値時代のはしりだと思いますが、団塊の世代、
一番人口の多い世代に育ちましたから、競争社会です。
アマゾンへ行ってはじめて自分は変わったと思いますが、
それまでは競争して育ってきた。
南米アマゾンの先住民の人たちと一緒に暮らしてみて、
愕然としたというか、要するにそこは競争社会じゃない。
そこに入ってみて、なんかホットしたというか、そういう社会もあるんだな、
それでいてうまく機能していると思いました。

 ここの子どもたちは全然媚びたりしない。
媚びるということはいろんな意味がありますが、
ここでこういう子どもたちを見て、
グレートジャーニーを通してそういう子どもたちに共通点があるなぁと、
ここで初めて気がつきました。

    1999年、ナムドの北のサルダンに学校が建てられた。
    歌、踊り、ゲーム、絵描きが主な科目だが、
    シッキムから来た教師によって英語も教えられている

 グレートジャーニーでは「旅は人力のみ」というルールを作った

 グレートジャーニーは奇跡の旅だった

  イスラムの人たちの優しさ

4 「足るを知る」アファール人

5 人間は進化はしていても進歩はしていない

 自然に優しいとはー3つに集約

7 トナカイ橇で旅をしたかった

8 「優しさ」さえあれば、どうにでもなる

9  当たり前のことがいかに大切か

10 「海のような人」

11 チベット。欲望、祈り、巡礼

12 中国のチベット以上にチベットの文化を残しているネパールの北ドルポ

13 大人に媚びない。良く働く子どもたち 

14 死の決め方とチベット医学

15 グレートジャーニー完結。タンザニア ラエトリ遺跡