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8.「優しさ」さえあれば、どうにでもなる

8.「優しさ」さえあれば、どうにでもなる

 

 彼ら遊牧民はいま、実はたいへんな思いをしています。
極東シベリアの遊牧民は、ペレストロイカの時まではすごく優遇政策をとられていました。
コルホーズ、ソホーズもいちおう公務員。
だから農民とか遊牧民ももともとは公務員だったわけです。
ちゃんと給料が届いていたし、燃料や除雪費とか、食糧も、全部中央から送られて来て、かなり豊かな生活をしていました。
しかし、ソ連が崩壊してから酷くなりました。
ものがぱたっと途絶えた。
要するに自分たちだけで勝手にやれということになってしまったから、非常にたいへんなことになってしまいました。

 特に遊牧民にとってたいへんなのは狼が増えてきたことです。
それまではヘリコプターを使って狼を駆逐したり、いろんな対策をとってきましたが、そういうことはもうできない。
自分たちで対策を立てなければいけないから、マイナス40度以下のところで、火を焚いて寝ずの番をしなければいけない。

 そうやってとにかく自分たちで身を守らなければいけない。
それは全てに渡っていて、例えば機械なんかも全然来ない。
雪上車も来ないし、壊れても部品が来ない。
3台あったら1台は部品をとるためにそのままにしておいて、2台を直すために使うとか、あるいは石油も来ないから、また元の犬橇に戻るとか。
とにかく、キャタピラが壊れて何をするかと思ったら、アザラシの毛の端をナイフで切ってロープを作るんですね。
それでキャタピラを繋いで走らせる。
あるもので何とか生きる。ものすごい独立心が強いというか、凄い人たちだなと思いましたが、その辛い生活の中でも、痩せ細った人はひとりもいない。
みんないい体格をしていました。

 

     カユックで川を下りたくなった。
     所有者のおじいさんは、最初は渋った。
     私が、南米からアラスカを経て、自分の腕力と脚力でここまで来たと話したら、しばらく考えて、譲ってくれた。
     お金は受け取らなかった。
     一かき、一かき、おじいさんに感謝しながらこいだ。

     


     各家には人間の形をした火起こし棒がある。これは、また各家の守り神でもある。

 

 地球上で地図が我々と違う社会、例えばアマゾンの人たちにとって世界は森と川とでできている。
それと同様、ツンドラと海とタイガしか知らないような、頭の中にそういう地図を持ってる人が、他にいないかと思ってシベリアで探しましたが、やっぱりシベリアは凄い。
何が凄いかというと、ソ連が凄い。やっぱり教育と医療に関して、やっぱり社会主義は凄い。

 それからインフラの整備。
だから長野オリンピックの時、北極海に面したほんとうに小さな村にいましたが、外は少なくともマイナス40度だけど、家の中にいて寒い思いしたことはない。
各家庭が全部セントラルヒーティングなんです。
村の発電所で蒸気を焚いて各家庭に送っている。
そして各家庭には全部テレビがある。
だから長野オリンピックを北極海に面した村で見てました。
閉会式でき欽ちゃんが騒いでいるのを彼らと一緒に見て、何この人?なんて言ってました。

 なおかつ、みんなビデオの撮影機を持っている。
なぜかというと、ふつうのスチール写真だと現像する必要があるけど、ビデオだとそのまま使える。
それがソ連時代に普及してそのまま残っている。
教育もしっかりしてるから、やっぱり地球というものがあって、世界には海というのがあって、大陸があって、やっぱり我々と違う地図を持っている人はいなかったですね。

 

 

     このおじいちゃんは遊牧民ですが、
     ほんとにツンドラボーイといっていいほど素敵なおじいちゃん

 彼は冬のツンドラでも、マッチとナイフと釣り道具と裁縫道具さえあれば、何ヶ月でも生きていけるというおじいちゃん。
大小ナイフ2本、マッチと釣り道具と裁縫道具。裁縫道具がなぜ必要かというと、着替えは持って歩かない。
とにかく綻びができたら直す。

     ナイフと釣り針、腰のバックに入れたマッチと裁縫道具

 やっぱり着てるものが凄いんですね。
僕は最初、毛皮を捕って暮らしているアラスカの人たちと出会う前は、今でもそうだけど、ファッションで毛皮を着ているというのはあんまりよくないと思っていました。

でも、やっぱり毛皮がないと生きていけない人がいる。
極北のアラスカでもそうですが、毛皮はやっぱり最高。
どんな化学繊維、どんなに改良しようと毛皮にはかなわない。
手袋も1枚の手袋なんです。
マイナス40度でも50度でも耐えられる。
足もそうだけど、靴もトナカイとかアザラシの毛皮の靴だとほんとにマイナス40度でも、下に藁など入れますが、そうするとほんとに寒い土地でも耐えられる。
やっぱり毛皮が必要な人もいるんだということがわかって、それからちょっと考えが変わりましたね。





 その人たちのところに居候していましたが、遊牧民の哲学は、客人をもてなすということが一番大切なことだ、ということなんですね。
だからキャビンに泊めてくれたり、犬橇のトレーニングをしてくれたり、とにかく何をこちらが望んでいるのか、何をしたいのか、どうしたら喜んでくれるのか、いつも考えてくれいる。 

 何か途中でくたびれた様子があったので、疲れているんですかと聞いたら、ちょっと疲れてきたねという。
もしかしたら僕たちは出ていった方がいいですかといったら、実はそうなんだという。
どういうことかというと、だからといって嫌われたわけじゃなくて、別れる時には必ずもう一回来てねというんです。
それは社交辞令じゃなくて、要するに孫を受け入れるおじいちゃん、おばあちゃんと似た立場なんですね。
何日かいるのはいいけど、長くいると疲れる。だからまた来てね、という。


 「ここはいつが一番いい季節なの」と聞くと、みんな春だという。
やっぱりシベリアの春というのは彼らにとって特別なんですね。
動物が起きてくる。
魚も動き出す。
そして、何よりも彼らが一番嬉しい時というのはトナカイの出産の時なんですが、その時においでといって、また行くと大歓迎してくれる。
1週間以上いるとまた疲れてくるようですが。

 



 

 とにかくこういうところでは、おじいちゃんとかおばあちゃんとかが大事にされている。
このふたりとも再婚同士で、65才のおじいちゃんと77才のおばあちゃん。

     タチアナさん
     再婚したポリスさんとよく喧嘩しながらも仲がよい

  おばあちゃんの場所というのが聖なる場所で、僕たちはどこに寝てもいいよと言われるけど、ここの廻りだけは行くなと言われていた。
ある時、テレビのディレクターがお婆ちゃんの手にうっかりさわっちゃった。
でも怒らなかったよって言ったんだけど、でも嫌われてた。

 それからおばあちゃんやおじいちゃんはすごく大事にされていますね。
なぜかというと、やっぱり彼らの知識が大切なんですね。
やっぱり誰よりも知識を持っている。
ツンドラに生きていて、何か問題が起こったら、相談に行くのはやっぱりおじいちゃんおばあちゃん。
 頼りにされているんですね。
みんなに必要だと思われているということが一番大切なことで、そうするとおばあちゃんも生き甲斐がでる。
日本の77才と違ってここの77才はかなり高齢ですが、マイナス30何度でも外に出て料理をする。

     縫い物をするタチアナさん。遊牧民グループ、リーダーの母親

 ここでは1日5食なんです。
全部トナカイ料理。
他のところでは腸に血を詰めて腸詰めにすることが多いんですが、ここは血の塊を鍋に入れて煮て、血のスープ。
1日5食だから1回は血のスープがでてくる。
とにかくほんとうに全部食べ尽くす。
命を食べているんだという思いは子供の頃から叩き込まれている。
もちろん骨の髄は食べるし、蹄も食べる。
生で食べる部分もあって、脳味噌とか肺とか腎臓、レバーは細切れにして、それに筋肉の腱を入れる。
それで混ぜると内臓サラダになる。
とにかく食べないところはない。
皮はもちろん敷物とかに利用する。
骨はどうするかというと、骨もちゃんと使う。

     トナカイの骨を砕く

 
トンカチで叩いて煮込む。
すると脂肪が浮いてくる。
食べ物のおいしさって、やっぱりアミノ酸です。
蛋白もありますが、やっぱり油というのがうまみの中では非常に大切なんです。
アザラシの捕れるところでは、何か食べる時にアザラシの脂をつけて食べる。
ただ、それは慣れるといいんですがものすごく臭い。
こういうトナカイの骨を砕いて煮てできた油をつけて食べる。
とにかく食べ尽くす。

 

     乳を与える母親トナカイ

  出産シーズンに行きました。
トナカイの赤ちゃん。
メスのほとんどは育てます。
オスは立派なものだけを残しておく。
要するに種オスです。
殺すわけじゃなくて睾丸を取ってしまう。
去勢する。
僕はあらゆるものを食べましたが、睾丸だけはまだ食べていなかったので、去勢をする時は教えて下さいと言っておいたんですね。
すると、去勢をする場面があったんです。
トナカイの睾丸は小さいんです。
袋をピュッとナイフできるとすぐに取れちゃうんです。
それを皿に入れて、いつでもいいから好きな時に食べなさいって言われたので、「はいありがとうございます」ってもらったんです。
さあ、夜になって食べようと思ったら、犬に食べられちゃった。
結局今になっても睾丸だけは食べられない。



     トナカイ遊牧民のリーダー、アナトリさん

 トナカイ遊牧民のリーダーはアナトリさんといって、ブレジネフの時代には代議員としてモスクワにいたことがあるらしいんですが、その時も、自分たちのトナカイとか仲間のことが心配でしょうがなかったので、やっぱりここにいる方がいいって言ってました。

 この人たちはトナカイレースとか、力比べがすごく好きなんです。
レスリングも好きだし、あとバーベルみたいなものを持ち上げる競争をしたり、要するに力比べをする。
だから、期待される男性像とかステータスというのは強さじゃないかと僕は思ったんです。
そこで、彼に強さと優しさとどちらが大切ですかと聞いたんです。
僕はロシア語がわからないから通訳を通して聞きました。

 そしたら僕はもちろん強さだと言うだろうと思ったら、そうじゃない。
生きていくためには強さなんて何の力にもならない、優しさがあればこのツンドラの中ではどうにでもなるという言い方をしたので、ちょっと驚きました。

 その他の遊牧民とかモンゴルに行っても、みんな優しさだと言う。
それがちょっと驚きでした。
だけど、考えてみれば、採集狩猟民にも同じことが言えて、
ある日本の心理学者で有名な人が「残酷さや暴力の起源は、採集狩猟民時代の残忍さが残っているからだ」と言いましたが、決してそんなことはない。

 その心理学者は世界的に有名な人ですがその人は何も知らない。
頭の中だけで考えているからそんなことを言う。
採集狩猟民と生活をしたら、彼らがいかに優しいかというのわかるはずです。
少なくとも戦争なんかしない。

 戦争の起源というのは、やっぱり農業を始め、モノをため込むことから始まると思いますね。採集狩猟民はモノをため込まない。要するに自分たちでモノを全部採れるから、人のモノを襲ったりして盗んだりする必要がないんです。そういうところでは力づくで何かをするということはない。だから採集狩猟民はもともと平和的な人たちです。遊牧民も同じように強さじゃなくて優しさと言う。ああそうなのかと納得しましたね。




 

 

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 グレートジャーニーでは「旅は人力のみ」というルールを作った

 
 グレートジャーニーは奇跡の旅だった

  イスラムの人たちの優しさ

4 「足を知る」アファール人


5 
人間は進化はしていても進歩はしていない

6 自然に優しいとはー3つに集約


7 トナカイ橇で旅をしたかった


8 「優しさ」さえあれば、どうにでもなる


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